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どうして全部分かってもらえる訳やないのに、全部見せなあかんの?
どうして全部理解してもらえる訳やないのに、全部話さなあかんの?
ずっと思ってた。
頑なと言われればそれまでだけど、話しても解決しない事を口にしなければならない事が嫌で堪らなかった。
心の奥にある事を口にする為の苦痛がどれだけなのかも知らないで。
だから、大人は嫌いだった。
無責任に暴いて、その傷口を塞ぐ事もなく去って行く。
大人だけじゃない。
多分子供の頃の俺は、周りの人間全てが苦手だったのだと思う。
友達も家族も好きだったけど、自分の事を全部知ってもらおうとは思わなかった。
無理な事だと心の何処かで分かっていたから。
とっくに諦めた筈なのに。
彼が現れた。
優しく手を差し伸べて、初めて誰にも踏み込ませなかった一線を越えて来た人。
無遠慮にではなく、けれど俺に拒絶を与えない狡さで。
俺の全てを暴き立てて、全部包んでしまった。
それは酷いやり方だと思ったのに、痛くて死にそうだったのに、でも嫌じゃなかった。
彼なら大丈夫だと、刷り込まれた感覚があったのかも知れない。
俺の中に踏み込んだ時に植え付けて行った感覚だったのだろう。
そうして隣に収まった彼は、俺の唯一の人になった。
「たーくろーさーーん。飲んでますかぁ?足りてますー?」
なんて、ろくに呂律も回らない彼が背中から負ぶさって甘えて来る。
(こりゃ、相当酔ってんな)
可愛い彼に抱きつかれて嬉しくない訳がない。
赤く染まった目元とか首筋をくすぐる柔らかい髪だとか、ふわりと香る甘い香りとか。
その全てが心地良くて手放せない点は、否めない。
俺は、光一が可愛くて可愛くて仕方ないんだよ。
恋人の様に我が子の様に、親友として仕事仲間として。
彼が好きで好きで堪らないのだ。
「こら、こぉいち」
そろそろ来るかなと思っていたら、やっぱり来た。
べろんべろんに甘えている光一を引き剥がして、定位置である腕の中に戻すと、剛は子供の様に笑い掛けた。
こんな顔も出来る様になったんだなあ。
昔はもっと必死で、男臭い表情ばかり見ていた気がするのに。
最近は余裕と言うか、甘える事のバランスを覚えたと言うか。
剛はくるくると表情を変える。
「おい、剛。こいつに注がれ過ぎて飲めないんだよ。ちょっと付き合え」
光一を抱き留めたままでいる剛に声を掛けて、隣の席を勧める。
「あ、じゃあこいつ、あっちの方に寝かして来ます」
「いいよ、お前が抱えとけば。その方が光一も安心だろ」
「いや、でもこの体勢は……」
「今更だろ、そんなの。皆知ってるって」
「つぉしー。お酒ー」
「はいはい、酔っぱらいに飲ます酒はありません。これ飲んどき」
器用に光一を抱えたまま席に着いた剛は、その酔っぱらいに水を渡している。
膝に乗せられた光一は、文句も言わずにグラスを両手で抱えて大人しくなった。
「相変わらずさすがだなあ」
「酔っぱらいの扱い見てさすが言われてもねえ」
苦笑を零しながらもグラスを受け取った剛は、昔よりも上手に酒を口にする様になった。
「あんなガキだったのになぁ」
「たくろーさん、いつの話してるんですか」
「お前ら見る度に思うよ、ホント。硝子の少年達が良くもまあここまで立派になったもんだな」
「周りにおった大人のおかげですわ」
「良く言うよ」
その大人を信じられなくてぼろぼろになっていたのに。
いつの間に立ち直り、こんなに強くなってしまったのか。
「つよぉ」
「はいはい。もぉええの?」
「……う」
握り締めていたグラスを突き出して、そのまま剛の肩に懐いた。
完璧に出来上がっている光一は、普段のしっかりした印象は幻だったんじゃないかと思う程、ふやけている。
それを見詰める剛の目の優しい事と言ったら。
「すっかり万年新婚夫婦みたいになっちまって」
「たくろーさんとこやってそうやないですか」
「ウチの事は良いんだよ! ……けど、まさかお前らが本気でくっ付くとはなあ」
「そうですか?
「ああ、お互い恋愛感情持ってても絶対言わないと思ってたよ。光一は頑なだし、お前は臆病だし」
「ははは」
乾いた笑いを漏らす剛は、あの頃から変わらない繊細さを、今ではすっかり武器に変えてしまっている。
「俺が思ってたよりもお前は現実見てたんだな。んで、こいつは思ってたより弱かったんだなあ」
「光一は強いですよ。唯、俺との事になると不安になるだけで」
「お前それ、ノロケにしか聞こえないよ」
言ってやると更に上手の微笑が返って来る。
「誰がこんな男にしたんだ!!」と言いそうになって、今まさに腕の中にいる相方が張本人である事に気付いた。
「……まあ、でも付き合う前も後もあんま変わらないですけどね」
不意に剛が弱気な言葉を漏らす。
このアンバランスさが彼の魅力だという事は分かっていたけれど、思わず真剣に返してやろうという気になってしまった。
「お前らは、相方以上恋人未満みたいな時期が長過ぎたんだよ。今更馴染んだ扱いをそうそう直せるもんじゃないって」
友人に幼馴染み同士で結婚した奴らがいるが、結婚してもその関係は余り変わらなかった。
それでも心の中に相手への恋情があったのは確かだ。
彼らもきっと同じだろうと思う。
「大体、光一は元々感情表現苦手な奴だろう。それ位多めに見てやれよ。……大丈夫、何処どう見たって光一が剛を好きなのはあからさまだよ」
時々閉口したくなる位に。
既に半分以上夢の住人になっている光一の頭を撫でてやった。
どんなにこちらが愛情を示しても彼の感情が向くのはたった一つで。
それが時々寂しいけれど、そんな彼が好きなのだとも思う。
彼の愛情を一身に受けている剛が穏やかに笑えるのも、良い事だと思うし。
何処にも間違った恋愛なんてないと、彼らを見ながら思うのだ。
俺は、不器用に恋愛をしている彼らが可愛くて可愛くて仕方ない。
疲れている彼と一緒にいるのは、辛い事じゃない。
気分のままに理不尽に当たり散らされても、それは自分に甘えているだけだから、何もかも納得して傷付けられていた。
感情の通りに動く剛は怖くない。
自分を必要としてくれていると思い上がれるせいでもあるし、周りに気遣われる度に『俺だけや』と言う優越感を抱けるからだ。
でも。
今の様にされるのは耐えられない。
剛の方が疲れていて感情のコントロールさえしんどい筈なのに、大人な振りをした。
目だけで笑ってみせる。
お前も疲れてるんやから、と労りの目線で気を遣われてしまったら。
俺はどうしたらええのか分からんくなる。
「俺は大丈夫やし。光一何処行きたい?」
俺の考えを見透かした様に問う剛が、子供みたいに笑うから。
その笑顔の意味が痛い程分かるから。
俺に、俺の事だけ心配していれば良いと促して。
違うねん。
堂本光一として、KinKi Kidsとして俺が在る為に必要なもの。
お前の隣でいる為の特権を奪わないで。
彼が優しく笑うから、俺は心配する事さえ許されない。
涙の跡が残るその白い頬を撫でる。
この不衛生な場所にあってすら、彼の肌は汚れを知らなかった。
泥に汚れても血にまみれてもいつまでたっても柔らかい頬。
汚れないのは、彼の精神故だろうけど。
今ですらタケルの白く穢れた液体を体内だけでなく肌に飛び散らせ、所有の証である赤い鬱血痕を身体中に残されているのに。
気を失っているヤマトの表情は酷く無垢だった。
睫毛の落とす影は子供のそれと同じだった。
不釣り合いに残る涙の跡を舌で舐めとって清めてやる。
「泣かせてばっかやな、俺」
どんな問題に直面してもそうそう涙を流さない男が、このテントで夜を明かす度泣いて叫んで怯えて。
傷付けている、と何処か遠い感覚で思った。
それでも俺はヤマトを手放せないし、ヤマトも俺がいなければならない事を感覚で知っている。
彼自身がそれを拒んでも覆す事の出来ない事実だった。
白い頬を綺麗にすると意識のない筈のヤマトが小さく息を吐く。
無防備に唇を開いて、タケルの方へと擦り寄った。
それはきっと体温を求める人間の無意識故の行動だろう。
けれど、胸が酷く軋んだ。
濡れて張り付いた髪を梳いてやると、うっすらと唇が笑みの形になる。
夢を、見ているのかも知れない。
彷徨って伸ばされた彼の手を緩く握って、願う。
ヤマトの夢に出て来る自分が優しいと良い。
彼の望む事を何でも叶えられれば良い。
黙って隣にいて、必要な時には必ず助けられる様な。
彼だけのスーパーマンの様な。
自分にはもう、そんな優しい夢等見せられないから。
大切なのは、貴方だけじゃない。
いつもそうやって確かめておかないと、いつか剛だけになりそうで。
視線の先には剛の背中がある。
その周りにはスタッフの姿。
穏やかに和やかに収録は進んでいた。
本番中ですら手を伸ばしたくなる事があって、光一は泣きそうになる。
指先を留める為に握り締めるのは、もう癖に近かった。
此処では、愛しいと思う事はタブーなのに。
視線を向けなくても、光一がどんな表情をしているか位分かる。
泣きそうな顔で、でも動けなくて佇んでいるんやろな。
振り返って抱き締めてやるのが一番良いだろうに、彼はそれを拒む。
自分が苦しくても、恋人以外の互いの存在価値を守る為。
恋でもない愛でもない、けれど何よりも強い情で光一は俺の隣にいた。