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剛は良く空を見上げている。
灰色の空でも星のない夜の空でも車越しの薄暗い空でさえ。
愛おしむ様に、それ以上に羨む様に。
その視線の先にはどんな空を求めているんだろう。
抜ける様な真っ青な空だろうか?それとも吸い込まれそうな真っ暗な空?
空を見上げる事すらなくなってしまった自分には、剛がどんな色を探しているのかが分からない。彼の隣に立って、同じ様に空を仰いでも見えるのは果てしなく遠いくすんだブルー。
どんなに求めても空は落ちて来ないし、その手に入る訳でもない。何を、求めて。
剛に聞いてみたい気がする。でもそれ以上に怖くて聞けない。きっと彼が紡ぐのはこの地上を否定する言葉だろうから。
剛の隣で、見えない空を一緒に見上げる事だけが、自分に許された事だった。
光一はきっと知らない。剛が何を求め、空を仰ぐかなんて。
知らなくて良い事だと、彼自身が思っている。
つよしは、その青に羨望と憧憬と愛を見出していた。
すぐ隣にいるのに決して手に入らない人の面影を追っているのだと。
[si:]DVD「Panic Disorder」を見て。
見上げた視線と伸ばした指先が何となく痛々しかったので。
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堂本光一との関係を聞かれる時、迷わず『相方』と答える事が出来る。
それ以上でもそれ以下でもない関係だったから真っ当な答えと言えるだろう。
けれど、どうしても説明の付かない感情の動きが自分の中に確かにあった。
意識しなければ見過ごしてしまう程の心音の変化。
楽屋の畳の上に仰向けに寝転んで、空き時間を持て余しながら剛は『相方』の事を考えていた。別の仕事で遅れている光一は、まだ来ない。
もう長い事寄り添って支え合って生きて来た、大切な人。
運命よりもずっと切実に繋がって来た関係だから、執着してしまうのも仕方ない事だと思う。
それでも。
割り切れないこの感情を、近くて遠い彼との関係を何と説明すれば良いのだろう。
親友と呼ぶには、独占欲が強過ぎる。
家族と呼ぶには、距離が近過ぎる。
相方と呼ぶには、余りにも彼だけに目を奪われ過ぎていた。
一番相応しい感情を本当は知っている。
けれど、『恋人』と呼ぶには--。
「光一にそんな感情ある訳ないわなー」
寝返りを打ちながら深く溜息を吐いた。
自分のこの、光一と一緒にいる時に目覚める感情は、恋愛感情に分類されるべき物だと思う。
今まで数え切れない程の恋愛をして来たから間違いない。
でも、この思いが一方通行であるのもまた間違い様のない事実だった。
光一は一番大切なものを慈しむ目で剛を見るけれど、それは『相方』の優しさだ。
一線を越えようとする心の揺れなんて一切ない。
分かっている。分かっているけれど。
気付いてしまった恋心を簡単に消す事は出来なかった。
疲れて眠っている光一にキスしたいと思った感情は、余りにリアル過ぎて笑えなかった。
どんな女の子より可愛く見えて、大切に閉じ込めて甘やかしてやりたかった。
少なくとも男相手に抱く感情じゃない。
不毛な恋をしたものだと自嘲して、また溜息を吐いた。
それでも、好きなのだ。
相方よりもずっと深く、世界中の誰よりも大切にしてやりたい。
親友よりも家族よりも相方よりも、深く。
繋がっていたかった。
今振り返れば可愛い葛藤をしていたものだと笑えるのだけれど、10代の剛には自分の感情と折り合いを着ける事で精一杯だったのだ。
ほんの少し視線を転じれば、苦しそうに歪む口許だとか、困った様に握り締められた手だとかに気付けただろうに。
お互いに幼かった、恋愛の自覚症状以前。
ハワイの夜は、東京と違ってちゃんと暗い。
時間の流れすら分からなくなる生活をしている人だから、遮光カーテンのない部屋で過ごせるのはとても貴重な事だと思う。
とても、大切な時間だった。
「つーよし」
ベッドの上から怠惰に呼ばれて、ベランダで煙草を吸っていた剛は、月光を受けてゆっくり振り返る。白いシーツの中で猫の様に丸くなっている光一が可愛かった。
「なん? 目ぇ覚めた?」
ほんの少し前まで触れ合えなかった時間を埋める様に抱き合ったから、まだ目覚めないと思っていたのに。
月光を映した光一の瞳は、思ったよりはっきりしていた。
「波、音する」
まだ少し寝惚けた口調で外を指差す。その仕草が、鎖骨の際に付けられた鬱血痕と妙なアンバランスを生み出していた。
艶かしい様で幼子の様で。
「そやね、ここ海近いもんなあ」
「ええなあ。涼しい部屋やし」
「光一さん、そればっかや。外の暑さも結構ええもんやで」
「えぇー涼しいのが良い」
「そんな事ばっか言っとらんと。おいで」
うーうー唸りながらも素直に起き上がった光一が、好きだと思う。
言う事を聞く様に育てたのは間違いなく剛自身なのだけど、あんまり素直に受け止められてしまうと、ちょっと照れ臭かった。
やはり全裸は気が咎めるのか、シーツを巻き付けてベランダに出て来る。
煙を気にするかと思って、まだ長い煙草を灰皿に押し付けた。光一は煙草を吸える時と吸えない時があって、今は吸えない時期だった。
それは彼にとって苦しくない時期だから、単純に良い事だと思う。だからなるべく煙草の味を忘れていられる様に煙を遠ざけた。
「うわー、ほんまにこの部屋海見えるんやなあ」
「お前、此処まで来てへんかったん?」
「うん。マネから聞いてたけど」
「……一人やったもんなあ」
剛は終わっていない打ち合わせがあって、この部屋で二人になったのは夜になってからだった。
それまで光一は一人だったから、仕方のない事なのかも知れない。
外界を極端に怖がる人だから。
「剛が明日は一緒おってくれるんやろ?」
収録が終わってから帰るまでに少しだけ自由時間をもらえた。いつもはホテルで寝たまま過ごすだけなのだけれど、剛が機嫌良さそうにショッピングに誘うから。
楽しいかも、なんて思ってしまったのだ。
剛と一緒なら、人混みも視線も怖くない。
「お土産一杯買うてこな」
「俺、そんな買ってく人おらへんわー」
「光ちゃんにお土産買ってくねん」
「一緒に来とんのに、それちゃうやろー」
「やってお前放っとくとマガダミアチョコしか買わなそうなんやもん」
定番のお土産をお世話になっているスタッフ分マネージャーに買わせて終わり、が彼の常套手段だった。
別に悪い事だとは思わないけど、ちょっと寂しいなんて剛は思ってしまう。
シーツを纏ったまだ細い身体を後ろから抱き寄せて、項にキスを落とした。
「新しいジーンズでも買うたろか」
「そんなん自分で買うわ」
「ええって。明日はおじちゃんが全部買ったるから、光ちゃんは手ぶらでええよ」
「っもー! お前甘やかし過ぎや!」
抱き締めて背骨を辿る様に口付けて行くと、くすぐったそうに暴れ出した。
「ええやん。労ってやりたいねんもん」
「ちょっ! 此処じゃやらんって」
「あ、それええな。青姦なんて久しぶりやなあ」
「ベランダでやんのは青姦ちゃうって!! こら、剛!」
舞台で酷使した身体は可哀相な位に痩せていて、自分に出来る事なら何でもしてやりたかった。
優しく溶かして、身体の境界線すら曖昧にさせて。
「も一回やろか」
小声で囁くと、今更の様に頬を染めて首を振った。
「やらんの?」
「此処じゃ、嫌」
また可愛い事を……。
隣は自分の部屋だし、此処は確か角部屋だから何処からも分かる筈がないのだけれど。
モラリストの光一に頷いてもらえる訳がなかった。
仕方なくベッドの中に戻って、もう一度どろどろに蕩けるまで、光一の世界が剛だけになるまで、優しく愛撫した。
剛の指先に丁寧に色を塗る。
塗り絵に向かう子供の眼差しで、光一は慎重に筆を運んだ。マニキュアの匂いに眉を顰めながらも口許は楽しそうに。
鮮やかなフルーツ色を剛は好んだ。存在を主張する極彩。
黄色に赤に緑にピンク。
好きなの塗ってええよ、と言われて困ってしまった事は内緒だ。
剛のその繊細な指先に乗せられた色は、どれも美味しそうで可愛かったから。
小さなアルミの箱の中に乱雑に入っているボトルから、光一はピンクを選んだ。桃の色。
困った時は単純に好きな物を選んだら良いのだと、剛が教えてくれた。
右手の親指と薬指、左手の小指と薬指と中指と。
歪なバランスで塗られたマニキュアを愛しい物を撫でる仕草で、そっと辿る。
「まだ乾いてへんやろ」
ああ、でもこれすぐ乾くやつやったかな。ボトルを持ち上げて小さな説明書きを目で辿った。
光一はその言葉に首を傾げる。無知な子供の仕草。
「マニキュアってすぐ乾かんの?」
その言葉に剛はゆったり笑う。優位者の笑みだった。
「光ちゃんは、ほんまこーゆーの知らんのやね。女に教えてもらったりせえへんかったん?」
「剛みたいにすけこましちゃうからそんなん聞かへんわ」
「……聞いて覚えるもんやないんやで、こぉちゃん」
何がおかしいのか、機嫌良く笑って頭を撫でられる。何となく、馬鹿にされているみたいで悔しかった。
「別に男がこんなん知らんかてええやろ」
不貞腐れた素振りで光一は呟く。俯いて視界に入ったのは、鮮やかな指先。
当たり前に伸ばされたその手は、当然の様にシャツの裾に忍び込んだ。
白いシャツ越しに透ける桃色。何気ないその光景に居たたまれなくなって、光一は視線を逸らした。
「光一はいつまでたっても箱入りで嬉しいわ」
「それ、どーゆー意味」
「俺色に染められて嬉しいって事」
男としてはとんでもなくキレそうな事を言われたのに、沸き上がる嬉しさを持て余して混乱する。
抱き寄せられた腰が知らず剛に擦り寄った。果実の爪が今度は頬に伸ばされる。
「いつまでもそのまんまでおってな」
思わず頷きそうになって、慌てて唇を噛んだ。輪郭を辿っていた指先がそれを解く様に下唇に滑る。
自分は爪を極彩色に染める事はないけれど、髪の先まで鮮やかな剛の色に染められているんだと漠然と思った。
そして、思った自分に恥ずかしくなって、フルーツ色の親指をぱくりと銜える。
「痛いわ、こぉいち」
きっと、思った事全部ばれているんだろうなと思った。
「お前はほんま分かりづらい子ぉやね」
「何やそれ、どーゆー意味やねん」
「言った通りですよ」
ごくありふれたレギュラー番組の打ち上げでの、ごくありふれたKinKi Kids風景だった。
これだけの大人数で来ているのに、隣同士で座るコンビと言うのはどうなんだろう。
なんて突っ込みは、今更過ぎて誰も触れられない。
「別に俺はビールおかわりしたい、言うただけやで」
「やから、分かりづらいねん。お前、今日拗ねてたやろ」
「……そんなんあらへん」
「拗ねてましたよ。自分で充分分かってるやん」
視線を逸らしたのに覗き込む様に追い掛けられて、光一は逃げ場を失った。
収録中に腹を立てたのは本当だったけれど、別に拗ねた訳じゃない。せっかくこの後一緒に打ち上げに行って帰れると思ったのに、休憩中に剛は友達と出掛ける約束をしていて。
あー今日は一緒にいられないんやって、ちょっと悔しくなっただけ。
ずっと一緒に過ごす時間が取れなかったから、少しでも取り戻したいと思ったのは、身勝手な我儘だった。
それなのに今、剛はちゃんと自分の隣にいる。
「ここでべろんべろんになるまで飲んで、帰らん気やろ?」
「ビール飲んだ位でそんなに酔わへんわ。剛じゃあるまいし」
売り言葉に買い言葉の要領で、光一はどんどん不機嫌になって行く。それこそ剛の思うツボだった。
「俺はお前送るつもりやから、最初から飲んでません」
「そんなん頼んでへんわ。一人で帰れる」
「タクシー呼んで、マネと一緒に?」
「そうや」
「つよちゃんが此処におるのに?」
「お前、終わったら出掛けるんやろ」
「そんなんとっくに断ったわ」
阿呆な子やね、光ちゃんおるのに出掛ける訳ないやろ。
少しでも一緒にいたくて、引き留める様に飲んでいるのは知っていた。
その不器用な素直さが好きだと思う。
光一の独占欲は、単純に直裁的に剛の自信だ。
「帰って飲み直そ」
「嫌や。まだ此処おる」
「家やないと飲ませてやれんのやもん。つよちゃんつまらんわ」
「別に一人で酒位飲めるっちゅーねん。阿呆か」
言われた事の真意は伝わった様で、微かに頬を染めて乱暴にビールを煽った。
あれだけありとあらゆる厭らしい事をしているのに(主に剛の探究心とオタク心のせいだったが)、この純真さは何だろう。眩しい物を見る表情で剛は手を伸ばす。
熱い頬に触れて、光一の好きなやりようで笑ってみせた。
「帰っていちゃいちゃしたいねん」
「……阿呆ちゃうか」
「口の減らん子ぉやわ」
その割にワンパターンですけどね。駄目押しにこっそり耳に口付けると、光一は帰ると呟いた。
家でいちゃいちゃが好きなのは、何も剛だけじゃない。
しかし頃合いを見計らって帰ったKinKi Kidsは、未だ気付いていなかった。
いちゃいちゃしてるのは24時間年中無休、その上所選ばずである事に。