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嬉しい事や悲しい事、この先どれ位お前にあげられるんやろな。
もっともっと、沢山の事を伝えたいよ。
出来れば、沢山の嬉しい感情を。
指を伸ばせば届く場所に剛はいてくれる。
近くにいられない時は、メールや電話で繋がっている。
そんな幸福を俺はどれ位噛み締めたらええんかな。
「なんや、光一。飯作ってくれとんの」
冷房のきつさに眉を顰めながら部屋に入った剛は、リビングのドアを開けた途端広がった匂いに頬を緩めた。
夏になると彼が穏やかな時間を過ごしている事が、自分の事の様に嬉しい。
だからと言って、この温度設定を許す訳には行かないのだが。
愛犬にも光一自身にも絶対に害が出る温度だと思う。
「うん。今日はな、光ちゃん特製夏カレーやで」
振り返った光一の笑顔に言いたかった言葉を飲み込んで、そうかと頷いてしまった。
「お前段々料理のレパートリー増えてくなあ」
「おう。俺にも特技の一つや二つないとあかんからな」
仕事以外に目を向けてくれる事が単純に嬉しい。
その身体の中を全て仕事で満たしてしまう時間の多い人だから。
他の事を入れる余裕があると言うのは、きっと悪い事ではなかった。
「シャワー浴びるか?」
「スタジオで浴びたからええよ。もう出来てんやろ?」
「うん。ならすぐ付けるから座ってて」
あ、ビールでええ?とテーブルに向かう剛の後ろ姿に声を掛けた。
自然な穏やかな時間。
不変の日々を恐れる自分達だけど、この一瞬だけは幸せだと思う。
永遠に不変であれと願う一秒。
次の瞬間にまた怯える二人がいても。
互いが此処にいる。
同じ世界を生きている。
そんな当たり前の事実に気付かされ、そして愛しいと思った。
何て単純で、優しい感情だろう。
「夏カレーなのに、やっぱ茄子は入ってないんや」
「当たり前やろ。あんなん入れたって上手くないわ」
おいしいおいしいと頬張りながらも、やっぱり気になって言ってしまった。
栄養がないと言うのは嘘になるのだけれど、子供の様に好き嫌いする彼は可愛いと思う。
もうこれは惚れた弱みだと、諦めた素振りで笑った。
「光一さんはもう少し好き嫌いなくした方がええね」
「別に困らんもん」
「ま、美味しいからええですけどね」
「ほんま?」
「ん。あ、でも言うたらあかんよ」
何を、と口には出さずに首を傾げた。
出来ない事の多い自分だから、出来る事が増えるのは良い事だと思うのだが。
「光一の手料理食べたい言う人間が出て来るからやん」
拗ねた様に呟く剛の言いたい事が分かって、光一は小さく笑った。
今更彼の独占欲を笑い飛ばす気もない。
唯、愛を実感するだけだ。
彼の言葉に一喜一憂していた頃の方が可愛げがあったのになあ。
いつの間にこんなに、剛の愛情表現に慣れてしまったのだろう。
「……別に言ったってええやろ。俺、剛以外に作る気ないもん」
彼を喜ばせる言葉はなるべく使いたくないのだが、事実には違いないので羞恥心には敢えて目を瞑った。
そんなんとっくの昔に放り捨てたわ。
得たものと失ったもの、俺らはどっちの方が多いんやろな。
「ずっとそやって言っててな」
噛み締める様に呟いて、大事に見詰められる。
多分真実の匂いのする、彼の心臓の一番近くに在る言葉だった。
「うん」
小さく頷いてスプーンを口に運ぶ。
こうして当たり前に食事をしたり一緒に眠ったり、お互いの帰りを待ってみたり。
昔より一緒にいる時間は減ったけれど、でもその分大切にする事を覚えた。
当たり前の時間の特別に気付いて。
奇跡の様な日常を、愛した人に愛される幸福を。
もっとずっときつくきつく抱き締めたかった。
お前が此処にいると、幸せだよ。
お前を世界一幸せにしたいと、強欲になる自分がいるよ。
だから。
ずっとずっと傍に居て。
喜びも悲しみも嬉しさも苦しみも。
貴方の傍で味わえたら、幸せ。
ドキュメント消化不良故の、楽しそうなキンキキッズ妄想(笑
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「そんなに辛いなら別れれば良い」
アドバイスしてくれたのは、誰だっただろう。
沢山の人に同じ事を言われたかも知れない。
そんな事すら思い出せない位、泥沼に嵌っているのは知っていた。
どうして、一番近くにいる人を信頼と共に歩んで行かなければならない相方を愛してしまったのだろう。
こんなにも愛しくて、こんなにも苦しい。
違うんや、別れたいんやない。
光一に抱く恋が辛くて、光一からもらう愛情が苦しくて。
唯、それだけ。
彼を手放す事の方が余程堪え難い。
剛は悩み過ぎなんやね。
此処まで一緒に歩いて来た俺が今更逃げる訳ないし、今更周りの人間がどうこう言う筈もなかった。
何もかも、今更なのだ。
引き返すのならもっと前にしておくべきだった。
本当は誰よりも率先して離そうとした手を今も繋いでいる決意を。
お前はちゃんと分かっているんだろうか。
どんなに堕ちても救ってやるよ。
どんなに逃げても引き戻してみせるよ。
でも、この手が離れたら二度と傍にいられないんだと言う事に、早く気付いて。
俺はこの手がある限り、強く強くお前を抱き留めるから。
傍にいる理由と決意。
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人はゆっくりと変わって行く。
それは、良い事でも悪い事でもなく当たり前の事だった。
本人が変化を望まなくても日々を蓄積すれば、必ず何処かが変わる。
光一は怯え惑いながらも変わって行く自分を受け入れようとしていた。
大人になったなと思う。
光一も眠る夜中(それはもう明け方の域だったが)に彼の部屋に勝手に上がり込んだ。
自分の部屋でギターを弾いていたらどうしても会いたくなってしまったのだ。
こんな衝動だけで動く事なんて、今では余りない事だったのに。
不安定な季節のせいだろうか。
不意に暗くなる空や寝苦しい湿度が、少しずつ体内時計を壊している様な気がする。
枕許に屈んで、寝入っている光一の無表情な寝顔を見詰めた。
テレビや雑誌で笑顔を振り撒いているせいだろうか。
こうして家にいる無自覚な時間程、彼は表情を失う。
嬉しい事も悲しい事も分からない顔をした。
それが嫌で彼と夜を共にしても帰ってしまう事が多い。
光一の寝顔を見ながら色々思い巡らす自分が嫌だった。
彼を、変えてしまったのは俺なのだと思い知るのが怖かったから。
色のない表情、お人形の様に体温を感じさせない。
乾いた細い髪を掬って、そっと掻き揚げた。
露になる広い額に口付ける。
彼を誰よりも早く大人にさせたのは、間違いなく自分だ。
俺の弱さが彼を急かした。
本当は、もっとゆっくり色々な事を知って色々な物を見て大人にならなくてはいけなかったのに。
光一は唯俺だけの為に、脇目も振らずに強くなった。
ごめんなさい、と今は強く思う。
大切にしなくてはならない事が、沢山あったのに。
もう彼の時間は戻らない。
何処かに大切なものを置き忘れて大人になった光一は、人を見詰める優しさばかり。
堂本剛を大切にする術ばかり覚えて、自身を労ってやれない。
あの、暗い闇の底から救い出されてやっと息が出来る様になった頃には気付けなかった。
唯ひたすら俺を掴んだ細い腕が強く見えて。
彼だけだと、強く束縛した。
俺を救う為に存在する人間等あってはならなかったのに。
光一をそう言う人間にしてしまった。
誰に裁かれなくても俺は罪深き人間だと思う。
彼を、狂わせてしまった。
頬に触れ、冷えてしまった肌を暖める。
低体温の癖に、相変わらず空調はきつかった。
本当は、可愛い奥さんを貰って幸せな家庭を築ける人だ。
愛情を沢山抱えている人だった。
それなのに。
彼の目は、もう自分以外向けられる事がない。
俺がそういう風に束縛してしまった。
苦しかったあの頃に、お前が俺を見詰めていないと生きて行けないと脅迫したのだ。
光一が此処におるなら、俺ん事だけ考えてくれるなら。
生きてもええよ、と。
何て傲慢だったのだろう。
そんな風に彼を雁字搦めにして、周囲から差し伸べられたどんな手も光一は取らなくなった。
剛の為にこの手は空けておかなくちゃいけないからなんて。
何でもない事の様に言い切った彼の強さといたいけさ。
無防備過ぎる人だった。
愛してくれなきゃ生きられないなんて戯れ言を。
彼だってそれが本気じゃない事位、もう分かっているだろうに。
今もまだちゃんと愛情をくれる人だった。
それすら苦しいと言ったら、彼は苦しむだろうか。
晒された寝顔を見詰めて、それから飽き足らずにキスをした。
何処にも行かないでと言った自分が、此処から逃げ出したくなっている。
光一の真っ直ぐな愛情が痛かった。苦しかった。
引き留めた自分がこの心地良い鳥籠から出て行きたいなんて。
そんな我が儘すらきっと感受するだろう恋人の身体にシーツを掛け直して、また静かに部屋を出て行った。
まるで此処は楽園だと、苦しい心で思う。
罪を背負って辿り着いた場所が楽園だなんて、何て滑稽なんだろう。
泣き出す気持ちを持て余して、優しい部屋から逃げ出した。
俺はまだ、お前の様に大人になれない。
最近は穏やかだと思うので、ちょっとこれは邪推ですね(^^;
彼らはちゃんと幸せだと思いますよ。
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本当に自分でも良くないなあと思うのだけど、やっぱり剛と一緒の仕事は嬉しい。
プロ意識を常に意識している筈なのに、思い切り私情が絡むのを嫌悪しつつも今ではもう仕方ないかな位に思っていた。
だって、剛が隣にいるのだ。触れる距離に、見詰め合える距離に。すぐ傍に。
顔が自然に綻ぶのは仕方なかった。
もっとずっと収録していたいと思っても、これ以上ゲストは来ないのだから終わるしかない。
最近暇で甘えてんのかなあと、馬鹿げた思考回路に苦笑した。
剛はこのままドラマの撮影に向かう。
一緒の楽屋に戻ると衣装を脱いで、荷物を纏めていた。
「光ちゃんは、この後何?」
「お前がいないラジオー」
「ああ、ごめんな。……って、この間までいなかったんやからおあいこやろ」
振り返って手を止めて、わざわざ俺と向き合ってくれる。
仕事に向かうのだから何処にも罪悪感はなくて良いのに。
俺が不満なの、伝わってんのかな。
畳に俯せになって剛の動きを追う。夏の色彩に身を纏った彼は、元気そうだった。
一緒にいられない時間になれた筈なのに、こうして二人でいるとつい昔の感覚に戻ってしまう。
二十四時間ずっと一緒にいたい、なんて。子供じゃあるまいし。
俺達はもう、一人で立てるしちゃんと一人で歩ける。
それは孤独に慣れた訳じゃなく、手を繋いで日々を歩いて行っても互いに依存しない為の自立だった。
堂々と大人になったと思うのに、まだこんなにも我が儘な自分がいる。
あかんなあ。目の前おると欲張りになるわ。
荷物を抱えて立ち上がると、剛が優しい瞳で光一を見下ろした。
小さな子供に向けるのと同じ目、同じ愛情。
可愛いと愛しいと、訴えるその色。
「……なん?」
「いや、この場合寧ろ僕が光一さんに聞きたいんですけどね」
「別に何もないで」
「それだけ見詰めといてよぉ言うわ。ちゃんと言ってええんやで?」
一緒にいたいって。言葉には出さず、でも明確に伝えたその柔らかな表情。
よっこらせと屈んで、光一の頬に指先を滑らせた。優しい感触に怯えた肌にまた苦笑する。
いつまでたっても、この人は。
直らない臆病を可哀相だと思いこそすれ、疎ましい物だとは思わない。
大事にしたくなる感覚。いつも胸の底で抱えている独占欲の片鱗だった。
「言えんわ、そんなん。剛仕事してんのに」
楽しそうに、ちゃんと仕事に向かっている。
この世界を受け入れている彼は、何よりも自分が望んだ姿だったから。
仕事をしている剛は嬉しい。演技している剛が見たい。歌っている剛もトークしている剛も。
彼のファンである自覚が多分にある光一はけれど、恋人の強欲もちゃんと持っていた。
苦しいのは、そのせいだ。
「ちゃんと言ったらええねんよ。俺はそんなんで今更逃げんし、光ちゃんの言葉を逃げ道にもせんよ。でもな」
長い睫毛に触れて、震えた瞳を閉じさせる。
お前に求められるのは嬉しい事だと、ちゃんと知って欲しかった。
「光ちゃんが一緒にいたいって言ってくれたら、もっと頑張れるよ」
「どぉゆう意味?」
「俺が仕事してんの嬉しいんやろ」
「うん」
「でも、俺が一緒におんのも嬉しいんやろ」
「……ん」
少し躊躇って、慎重に頷いた。
もっともっと、自信を持って。お前に望まれるのが嬉しい。お前の望み通りの姿になろうとはもう思わないけれど。
単純な感情の変化を素直に受け止めて。
「俺も嬉しいんよ。そやって嬉しく思ってくれる事が。やからな、頑張れるんよ。光ちゃんが望んでくれる事が」
分からないと悲しそうに首を横に振る光一の頭を撫でて、それでもええよと囁いた。
分からなくて良いよ。お前は感情を理論的に考えたがる人だから。
感情の公式に安心したい人だった。
いつか、も少し素直に物事受け止められる様になったらな。
きっと分かるよ。
お前が俺に望む事は、悪い事なんかじゃないって事。
それも愛なんだって事が。
久しぶりなので、優しい感じのお話を。
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一緒に暮らそう、と喉まで出掛けている言葉をもう何年押さえつけているのか。
付き合い始めて多分、八年位になると思う。彼を恋愛の対象として意識してからなら、十年以上だ。
大切に大切に慈しんで来た彼を生涯の伴侶と決めるのは、何も一大決心なんて大層なものじゃなく。
唯、手放したくない思いばかりが先行していたから。光一と生きて行くのは、当たり前の事だった。
その当たり前の事実はお互い承認していると思う。
けれど、あのいつまでも臆病な恋人は近付き過ぎるのを恐れるのだ。
此処まで近くにいながら今更やとは思うんやけど。優しさから来る臆病なんやから仕方ないわな。
昔一緒に生活していた経験があるし、今だってどちらかの家に居る事が多いのだから、高い家賃の節約だと思えば、どうってことない。
そう割り切って打ち明けようと思うのだけど、彼の抱えている怯えも分からなくはないからつい言葉を飲み込んでしまう。
仕事で一緒にいる時間。プライベートで共に過ごす時間。
どちらかに齟齬が生じた時に、全ての時間を共有していては取り繕う余裕がなくなる。
剛に飽きられた時に簡単に離れられなくなる。辛い時苦しい時泣き出しそうな時、一人なら堪えられるけど、二人で居たらきっと弱さを晒してしまう。
そんな事を恐れて、一緒に暮らす事を持ち掛けても簡単には頷いてくれないだろう。
阿呆やな。何処にいたってそんなん全部分かるんやで。
遠い場所で心配させる位なら、抱き締めさせて欲しい。夜が明けるまで、ずっと傍にいたるから。
きっと光一は、こっちの思いなんか考えちゃいない。
いつだって自分勝手な恋人。
もう諦めて全部俺に渡してまい。お前の弱さも脆さも狡さも、何もかも。
そうすれば、お前の睫毛が震える前に抱き締める事だって出来るんやよ。
なあ、ずっと一緒にいようや。
何年も何十年も、誰も俺らを知らなくなっても、ずっと。
二人きりでおりたい。死ぬまでお前と生きて行きたいんやよ。