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剛の指先に丁寧に色を塗る。
塗り絵に向かう子供の眼差しで、光一は慎重に筆を運んだ。マニキュアの匂いに眉を顰めながらも口許は楽しそうに。
鮮やかなフルーツ色を剛は好んだ。存在を主張する極彩。
黄色に赤に緑にピンク。
好きなの塗ってええよ、と言われて困ってしまった事は内緒だ。
剛のその繊細な指先に乗せられた色は、どれも美味しそうで可愛かったから。
小さなアルミの箱の中に乱雑に入っているボトルから、光一はピンクを選んだ。桃の色。
困った時は単純に好きな物を選んだら良いのだと、剛が教えてくれた。
右手の親指と薬指、左手の小指と薬指と中指と。
歪なバランスで塗られたマニキュアを愛しい物を撫でる仕草で、そっと辿る。
「まだ乾いてへんやろ」
ああ、でもこれすぐ乾くやつやったかな。ボトルを持ち上げて小さな説明書きを目で辿った。
光一はその言葉に首を傾げる。無知な子供の仕草。
「マニキュアってすぐ乾かんの?」
その言葉に剛はゆったり笑う。優位者の笑みだった。
「光ちゃんは、ほんまこーゆーの知らんのやね。女に教えてもらったりせえへんかったん?」
「剛みたいにすけこましちゃうからそんなん聞かへんわ」
「……聞いて覚えるもんやないんやで、こぉちゃん」
何がおかしいのか、機嫌良く笑って頭を撫でられる。何となく、馬鹿にされているみたいで悔しかった。
「別に男がこんなん知らんかてええやろ」
不貞腐れた素振りで光一は呟く。俯いて視界に入ったのは、鮮やかな指先。
当たり前に伸ばされたその手は、当然の様にシャツの裾に忍び込んだ。
白いシャツ越しに透ける桃色。何気ないその光景に居たたまれなくなって、光一は視線を逸らした。
「光一はいつまでたっても箱入りで嬉しいわ」
「それ、どーゆー意味」
「俺色に染められて嬉しいって事」
男としてはとんでもなくキレそうな事を言われたのに、沸き上がる嬉しさを持て余して混乱する。
抱き寄せられた腰が知らず剛に擦り寄った。果実の爪が今度は頬に伸ばされる。
「いつまでもそのまんまでおってな」
思わず頷きそうになって、慌てて唇を噛んだ。輪郭を辿っていた指先がそれを解く様に下唇に滑る。
自分は爪を極彩色に染める事はないけれど、髪の先まで鮮やかな剛の色に染められているんだと漠然と思った。
そして、思った自分に恥ずかしくなって、フルーツ色の親指をぱくりと銜える。
「痛いわ、こぉいち」
きっと、思った事全部ばれているんだろうなと思った。
2011/02/11 halfwaytale Trackback() Comment(0)
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