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本当に自分でも良くないなあと思うのだけど、やっぱり剛と一緒の仕事は嬉しい。
プロ意識を常に意識している筈なのに、思い切り私情が絡むのを嫌悪しつつも今ではもう仕方ないかな位に思っていた。
だって、剛が隣にいるのだ。触れる距離に、見詰め合える距離に。すぐ傍に。
顔が自然に綻ぶのは仕方なかった。
もっとずっと収録していたいと思っても、これ以上ゲストは来ないのだから終わるしかない。
最近暇で甘えてんのかなあと、馬鹿げた思考回路に苦笑した。
剛はこのままドラマの撮影に向かう。
一緒の楽屋に戻ると衣装を脱いで、荷物を纏めていた。
「光ちゃんは、この後何?」
「お前がいないラジオー」
「ああ、ごめんな。……って、この間までいなかったんやからおあいこやろ」
振り返って手を止めて、わざわざ俺と向き合ってくれる。
仕事に向かうのだから何処にも罪悪感はなくて良いのに。
俺が不満なの、伝わってんのかな。
畳に俯せになって剛の動きを追う。夏の色彩に身を纏った彼は、元気そうだった。
一緒にいられない時間になれた筈なのに、こうして二人でいるとつい昔の感覚に戻ってしまう。
二十四時間ずっと一緒にいたい、なんて。子供じゃあるまいし。
俺達はもう、一人で立てるしちゃんと一人で歩ける。
それは孤独に慣れた訳じゃなく、手を繋いで日々を歩いて行っても互いに依存しない為の自立だった。
堂々と大人になったと思うのに、まだこんなにも我が儘な自分がいる。
あかんなあ。目の前おると欲張りになるわ。
荷物を抱えて立ち上がると、剛が優しい瞳で光一を見下ろした。
小さな子供に向けるのと同じ目、同じ愛情。
可愛いと愛しいと、訴えるその色。
「……なん?」
「いや、この場合寧ろ僕が光一さんに聞きたいんですけどね」
「別に何もないで」
「それだけ見詰めといてよぉ言うわ。ちゃんと言ってええんやで?」
一緒にいたいって。言葉には出さず、でも明確に伝えたその柔らかな表情。
よっこらせと屈んで、光一の頬に指先を滑らせた。優しい感触に怯えた肌にまた苦笑する。
いつまでたっても、この人は。
直らない臆病を可哀相だと思いこそすれ、疎ましい物だとは思わない。
大事にしたくなる感覚。いつも胸の底で抱えている独占欲の片鱗だった。
「言えんわ、そんなん。剛仕事してんのに」
楽しそうに、ちゃんと仕事に向かっている。
この世界を受け入れている彼は、何よりも自分が望んだ姿だったから。
仕事をしている剛は嬉しい。演技している剛が見たい。歌っている剛もトークしている剛も。
彼のファンである自覚が多分にある光一はけれど、恋人の強欲もちゃんと持っていた。
苦しいのは、そのせいだ。
「ちゃんと言ったらええねんよ。俺はそんなんで今更逃げんし、光ちゃんの言葉を逃げ道にもせんよ。でもな」
長い睫毛に触れて、震えた瞳を閉じさせる。
お前に求められるのは嬉しい事だと、ちゃんと知って欲しかった。
「光ちゃんが一緒にいたいって言ってくれたら、もっと頑張れるよ」
「どぉゆう意味?」
「俺が仕事してんの嬉しいんやろ」
「うん」
「でも、俺が一緒におんのも嬉しいんやろ」
「……ん」
少し躊躇って、慎重に頷いた。
もっともっと、自信を持って。お前に望まれるのが嬉しい。お前の望み通りの姿になろうとはもう思わないけれど。
単純な感情の変化を素直に受け止めて。
「俺も嬉しいんよ。そやって嬉しく思ってくれる事が。やからな、頑張れるんよ。光ちゃんが望んでくれる事が」
分からないと悲しそうに首を横に振る光一の頭を撫でて、それでもええよと囁いた。
分からなくて良いよ。お前は感情を理論的に考えたがる人だから。
感情の公式に安心したい人だった。
いつか、も少し素直に物事受け止められる様になったらな。
きっと分かるよ。
お前が俺に望む事は、悪い事なんかじゃないって事。
それも愛なんだって事が。
久しぶりなので、優しい感じのお話を。
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2011/02/11 halfwaytale Trackback() Comment(0)
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