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光一は、小さな頃からまるで決まり事のように自分の後ろを歩く。
習慣と言ってしまえばそれまでだけど、振り返ると見える旋毛に愛しさと僅かの悲しさを感じた。
「こーちゃん」
「……ん?」
「起きとんの?」
反応した声は、眠りに落ちる寸前のそれで、これから収録が始まるのに大丈夫なのかと苦笑する。
静かな廊下を歩く自分達の他には、前後に人がなかった。
二人きりの僅かな時間。
けれど、光一は二人である事すら気付いていない。
足許を見て、俺の足音だけで進むべき道を確認していた。
無意識の信頼は嬉しい。
俺の後を付いて歩けば怖い事はないと言う安心感だった。
多分光一は、自分が手を引いてやれば目を瞑っていても躊躇なく歩くだろう。
出会った時から変わらない彼の潔ささえ感じる感情に、愛を見るのは仕方なかった。
愛されていると感じる刹那、確実に自分は幸福だ。
スタジオまでの道程で、光一はまだ仕事に切り替えられていない可愛い状態だった。
振り返って、悪戯をしたい衝動に駆られる。
剛は思い付いた気分のままに、彼に気付かれないようそっと視線を向けた。
自分の足音を聞き分けて、半分眠ったまま下を向いて歩いている人。
柔らかな髪がきちんとセットされて揺れている。
少し長めの袖から覗く指先が幼かった。
覚束ない足取りに覚える感情は、恋人と言うより父親の心配に近い。
小さく苦笑して、自分より背が高い筈なのにはっきり見える旋毛を人差し指で突ついた。
「……っな!」
「かわいなあ、吃驚した顔」
唐突に立ち止まって、音がしそうな勢いで顔を上げる。
慌てて突つかれた頭を両手で押さえる仕草が子供と同じで、剛ははっきり笑った。
可愛い。愛しい。でも、痛む心臓が確かに在る。
光一が俯いて歩く理由。前を向いて歩けない事情。
彼は一度も口にした事がないけれど。
言葉にする程弱くもないし、同時に強くもなかった。
俺は、先に言葉にしてしまう。
いつでもそうだった。
俺達は、方法が違う。
生き方が決定的に違っていた。
だから、たまにこの後ろを歩く人が可哀相だと思う。
外を出歩かない光一が見詰めるのは、いつも無機質な床だった。
その足許にせめて花でも咲いていれば、世界はもう少し優しく映るのに。
蛍光灯を反射した床には、どんな優しさも見出せない。
一人でいる時は、どんな風に歩くのだろうか。
俯いて目許を隠して、全てから自身を隔離させて。
臆病な心を仕舞い込んで人前に立つ貴方の、どうしても変わる事の出来なかった部分。
自分の前に心ごと晒してくれる事はないけれど。
「手ぇ繋ごか?」
「……何やそれ。子供やあるまいし」
「えーやん。大人が繋いだって」
「意味わからへん」
「光ちゃんと手ぇ繋ぎたい言うおねだりやんかー」
「お前のは命令に近いわ」
「何でーええやん。好きやろ?俺と手繋ぐの」
「……スタジオ入るまでな」
「いやいや、スタンバイ入るまで繋ぎますよ」
「絶対ヤやー。健さんとかトムさんとか絶対からかわれるやん」
小さくごねながらも素直に差し出された指先を握って、同じように彼の前を歩く。
指先を絡めて、二人の距離を近付けた。
本当は並んで歩きたいけれど、それは自分の我儘だ。
光一が小さく笑った。
安心した子供のそれと同じ。
愛しさと悲しさは、身体の中でちょうど半分。
視線に怯える貴方が、安心する魔法を僕は沢山知っている。
世界が優しい色を見せる事はないけれど、何度でも貴方の前に綺麗な色を広げるよ。
剛さんお誕生日おめでとー!!その1。
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2011/02/11 halfwaytale Trackback() Comment(0)
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