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2025/05/24

halfway tale 10

 光一が、あの光一が、唯の一歩も動けずに蹲っている。

 限界だった。
 世の中の理不尽も矛盾も全て受け入れた振りをして、笑い続けていた彼が。
 隣にいる俺の不甲斐無さばかりに、無理をし続けた脆い身体が。

 限界を訴えていた。
 楽屋の片隅で膝を抱えている光一を見詰める。
 泣けない瞳で自分の手に視線を落としたまま動かない。
 その造りは彫像の様に美しかったけれど。

 感情のない置物等要らない。
 ゆっくりと彼の元へ近付く。

 俺に出来る事は。

 彼の隣にいる事。
 彼の為に在る事。

「光一」

 見詰めた手に自分の指先を重ねる。
 冷たい手は、何の感情も映さない。
 手を取っても表情の変化を生まない光一が悲しかった。
 彼はこんな無表情な人じゃない。
 良く笑い良く怒り、そしてひっそり悲しむ人だった。
 愛されて育ったからこその豊かな感情表現。
 それに惹かれたのは自分だった。

 彼の為に。
 ずっと黙って支え続けてくれた彼の為に。
 今、自分が出来る事。

「俺は、何をしたらええ?」

 辛そうな瞳を見たくなかった。
 白く冷えた頬が苦しかった。

「……」

 ゆっくりと焦点を合わせた瞳が剛に向けられる。
 もしかしたら、あの暗闇から救い出してもらった時の俺もこんな感じだったのかも知れない。
 今ではもう胸が痛む程度で収まる様になってしまった、過去の自分。
 あの時必死で前を向いていた人が、こんなにも辛そうな目をして。
 噛み締めた唇が無防備に緩んだ。
 見詰める瞳が俺に縋る。

「……隣に、おって」

 そんな目を見せた事等ないのに。
 眉を顰めて苦しそうに呟いた。
 重ねた手を握る仕草は幼い。

 光一の願う事は、いつも容易くて少し難しい。
 子供の夢の様な慎ましさと広大さを併せ持っていた。

「俺を、好きでいて」

 --愛していて。
 それだけで光一は救われるのだろうか。

 あの時暗闇から伸ばしてくれた手は、もっと必死だった。
 こんな、柔らかく優しく握られる感触等ではなかった筈なのに。
 真っ直ぐな視線を受け止めて、ああそうか、と思う。

 彼はまだ、圧倒的に子供なのだ。

 剛ばかりを早く大人にしなければと焦り続けて、自分の事を忘れてしまった。
 その瞳の揺れは、迷子と同じだ。
 その願いは、恋情よりも単純で直裁だ。

 けれど。
 思いの深さは、恋情と同じだった。
 子供の心のまま深い恋を抱くのなら。

「ええよ。ずっと--愛したる」

 俺は唯、彼と共に在るだけだ。





光ちゃんの中にあるもう二度と成長しない子供を表現する事は、私の剛光小説のテーマかも知れません。

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2011/02/11 halfwaytale Trackback() Comment(0)

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