忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2025/05/24

halfway tale 13

 人の道から外れた恋をしているから。

 別々に用意された楽屋の意味等聞くまでもなく分かる程度には、狡く大人になった。
 余り大っぴらに一緒にいてはいけない、と言う事位もう充分分かっている。
 誰に指摘されなくても自分たちが一番理解しているし、一番苦しんで来たのだから。

 それでも一緒にいる意味を。
 投げ出さずに逃げ出さずに、じっと愛し続ける事を。

 どうか。
 全ての人じゃなくて良いから。理解してくれなくても良いから。
 知って欲しい。

 俺達の、恋を。

 ろくに着替えもしないで、光一が剛の楽屋に上がって来た。
 まだこの後に収録が残っているから、空き時間の内に弁当を詰め込んで次の準備をしなければならない。
 そんな事を充分分かっている彼が、此処にいる意味を。
 多分自分は間違えずに理解している筈だ。
 衣装すら着替えていない癖に、きちんと台本だけは握り締めている光一に苦笑を向けて、「上がり」と言ってやる。

「弁当は?食べたん?」
「……、うん」
「嘘やろ」

 ぴしゃりと言われて、光一は怯む。

「まあ、ええわ。とりあえず、此処」

 おいで、と優しく招かれて光一は素直にテーブルを挟んで剛の向かいに腰を降ろした。

「なあ、光一んとこ行って弁当とハンガー持って来て」
「はい。次の衣装も持って来ましょうか?」
「ああ、せやな。うん、頼むわ」

 近くにいた若いマネージャーに鷹揚に言って、剛は軽く溜息を吐いた。
 隣の楽屋に向かうのを見届けてから光一へと向き直る。

「別に、気にする事ちゃうやろ?」
「……何が?」

 こいつは天の邪鬼だ。そして分かりやすい嘘つき。
 今時の小学生だってもう少しまともに隠せるものなのに。
 これは良くない成長の一つなのかな、とも思う。
 自分の気持ちに蓋をするのは、光一の得意技の一つだけど。
 自覚があって、それでも恍けようとするなんて、余り可愛くない態度だった。

(何も言わんで甘えようったって、あかんで)

 甘えて自分の気持ちを整理して、また何事も無かった様に笑うなんて。
 そんな事。
 俺が許さへん。

「剛さん、これで良いですか?」

 沈黙した空気を破る様に、マネージャーが荷物を抱えて帰って来た。
 光一の衣装を剛のそれの隣に掛けて行く。

「……ああ、ありがと。ちょお悪いけど、話あるから外してもらえる?後、外」
 人払いをしろ、とは明確に言葉にしない。それでも心得ているマネージャーは分かりました、と部屋を出て行った。
 これで、時間まで光一と二人きりだ。
 きっとチーフマネージャーには嫌な顔、されるんやろな。

「弁当、食べよか」
「うん」

 少し穏やかなトーンに声を戻して、優しく笑ってやる。
 剛の変化に流されて、光一は曖昧に箸を取った。

 元々の食欲の無さとさっきの収録の名残とで、余り食べたくない。
 でも、剛の前でそれをすると何を言われるか分かったもんじゃない。
 仕方なく、無難な煮物に手を伸ばした。

「お前、相変わらず不味そうに食うなあ」

 溜息まじりに呟かれた言葉は、優しかった。
 安心する。
 剛の言葉はその体温と同じ。あったかい。
 自分がどうしようもない理由で此処にいる事等、分かっている。
 本当は自分でも呆れる位。
 あんなもので揺らぐなんて、どうかしていた。

 いつもなら聞き流してしまえる程度の。
 けれど。

「こーいち。食べさしたるからこっち来」

 柔らかいトーンで促される。
 剛は絶対に全部気付いている。
 気付いていて、甘やかそうとして、それ以上に厳しく暴こうとしていた。
 彼の前に全てを晒すのは嫌いだ。
 でも、その温もりが欲しいから此処に来た。だから逆らわず剛の隣に言われるまま近付いた。
 暴かれてみっともなくても、剛じゃなきゃ。

「ほれ、あーん。お前今がりがりなんやから、も少ししっかり食えや」
「食べてる」
「嘘つき」

 楽しそうに笑って、剛が箸を運んだ。
 彼の世話を焼くのは、好きだと思う。甘やかして甘やかし抜いて、どうにもならない位追い詰めたい。
 何の躊躇も無く、全てを委ねて為すがままに口を開く彼が可愛いと思った。

「も、いい」
「もぉ?まだ全然やで」
「この弁当おっきいねん」

 まるで女の子の様な愚痴を零しながら、ご馳走様でしたと丁寧に頭を下げた。

「お前の小食はいつになったら治るんやろなあ」
「無理やって。そんな入らんもん」
「やからこんな軽いんやで、ほら。よいしょ」

 光一の腰を抱き寄せて、膝の上に抱える。

「つぉし! ……何っ!!」
「何って、抱っこやん」

 怒った顔をして、それ以上に照れた赤い頬で言葉に詰まっている。
 かわいい。

「……なあ、あんなん初めてやないやろ」

 不意に、何の前触れも無く本題に触れた。
 光一がこの部屋に来た意味。不安に思ってしまった事。
 本当はいつも不安な幼い心。
 甘やかしたい。暴き立てたい。傷付けたい。守りたい。
 ……本当は、ずっともっと愛したい。

「大体、台本の段階で出てたやん」

 その時の反応は出たとこ勝負を許してもらっているから、決めていなかったけれど。
 結果は最初から、収録よりももっと前から分かっていた。
 なのに、何で今頃。彼は傷付いた顔をするのだろう。

「まだ、俺の事信じられんの?」
「ちがっ!! そんなん言うてへん」
「言うてなくても思うてるやろ。まだお前は、俺がどっか行くと思うてる。お前以外の誰かを愛すると思ってる」
「そんなん……」
「違う、言い切れるんか? ずっと、思ってるやろ?」

 後の問い掛けは、なるべく穏やかな表情で。
 膝の上に抱えられた光一は所在無さげに、視線を彷徨わせる。

「こぉいち」

 呼べば、緊張した指先が剛の肩を掴んだ。
 なあ、愛してるんやよ。
 お前以外選べない位、見えない位、本気で。

「もし、俺が結婚するとして、」

 それはあり得る未来だった。
 彼を守る為だったら、彼と一緒にいる為だったら、きっと俺は結婚位してしまうだろう。

 永遠に二人きりでいられないのなら。
 それでも隣に立つ為なら。

「32歳やったら、割とすぐやんね」
「うん」

 戸惑いながらもあり得る未来を想像して光一が同意する。
 お前は弱いなあ。
 誰が、こんなお前を手放してやるもんか。

「それでも、な?」

 上目遣いで見上げて、その柔らかな髪に触れた。
 黒目がちな瞳が先を促す。安心させて欲しいと、雄弁に瞳が訴えていた。

「どんな時でも、俺はお前が一番や。一番、大切なんやで」

 お前の隣には、必ず。必ず俺がいるから。
 誰にも渡せない。

「やめへんよ。KinKi Kidsもこーいちの恋人も、絶対やめへんから」
「令嬢のパパに言われても?」
「おう。跡継いだって仕事続けるわ」
「ふふ」

 こんな、まだ現実に動き出していない未来にすら不安がる光一を。
 どうして手放せる?

 占いなんて、クソ食らえや。
 元々外道の恋やから、あんなもんに俺達の未来が映し出せる筈が無い。 最初から想定されていない現実だ。
 本当は、自覚したその時から見て見ぬ振りをしなければならなかった恋心。
 それでも、手を伸ばしたのは。

 彼が愛しいから。
 誰にも渡したくなかったから。

 唯、それだけ。
 それだけの思いを。
 たったそれだけでずっと育んで来た、この純然たる思いを。
 誰も、奪わないで欲しい。

「剛」

 明確な発音で、至近距離にある恋人を呼ぶ。

「ん?」
「ずっと、好きやよ」
「うん」
「お前が誰と結婚してもキンキ続けられなくなっても、ずっと」
「うん」

 沢山の言葉は要らない。
 不器用な彼が綴る愛の言葉は、至上のものだと思った。

「剛だけが、好き」
「そか」

 引き寄せて、触れるだけのキスをした。
 可愛い可愛い光一。
 優しくしたい。甘やかしたい。

 この愛を、守り続けたい。





キョーダイ坂井真紀ちゃん。
きっと光ちゃんは気にしないだろうけど、私が気になってしまったので。

拍手[23回]

PR

2011/02/11 halfwaytale Trackback() Comment(0)

COMMENT

COMMENT FORM

NAME
MAIL
WEB
TITLE
COMMENT
PASSWORD

TRACKBACK

TRACKBACK URL :
カレンダー
 
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
 
 
リンク
 
 
 
カテゴリー
 
 
 
最新コメント
 
 
 
最新記事
 
(02/11)
(02/11)
(02/11)
(02/11)
(02/11)
 
 
プロフィール
 
HN:
椿本 爽
性別:
女性
 
 
バーコード
 
 
 
ブログ内検索
 
 
 
アーカイブ