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収録が終わって、いつもの帰り道。
いつもと違うのは運転席にいるのが剛で、自分が助手席に座って起きている事だろうか。
一人だけの番組の収録がある時、剛は気紛れに迎えに来てくれる。
仕事が終わって、彼がいてくれるのは嬉しかった。
甘やかされるのは嫌いだけど、剛なら良い。
光一の部屋に送られて当たり前の様に一緒に入って来た剛は、当たり前の様に一緒に風呂に入ろうとする。
性的な意味がなくてもどうしても恥ずかしい光一は、いつも拒むのだけど。
それが聞き入れられた試しは、余りなかった。
どんな表情をしていたら良いか分からなくて、俯いたまま洗われていると不意に剛が顔を覗き込む。
吃驚する程優しい眼差しで見詰められた。
「…な、なん」
普段は見通せない瞳の奥までが疑い様もなく確実に優しさを滲ませていて、光一は困ってしまう。
甘やかされるのも優しくされるのも彼になら良いけれど、だからと言って素直にその愛情を受け取れるかと言ったら話が別だ。
表情と同じままの声が浴室に反響する。
広がった甘さに肩を竦めた。
「なんや、今日は変に緊張したまんまやなあ」
感心したみたいに言われて増々困ってしまった。
緊張なんてしてない、収録が終わってからもう大分時間は経っているのだ。
そんな筈。
「目が吊ったまんまやで」
緊張してる時の顔、と囁かれて泡のついた手で目元を撫でられる。
それにぴくりと反応を返すと、興味を引かれた様に剛が目を眇めた。
「おいで」
まるで幼い子にするような声の響きだった。
けれど、その手は強引に光一を抱き寄せる。
よしよし、と頭を撫でられて泡のついたままの背中を大人の動きで撫で上げられた。
優しい手管に抗えない。
緊張するのは仕方ない事で、この仕事を続けて行く以上慣れるしかなかった。
どんな人間だって緊張しながら生きている。
当たり前の事なのに。
時々剛はこうやって、世の中の全ての事から光一を甘やかそうとした。
鼓膜に直接注ぎ込まれる甘い言葉と、無遠慮に這い回る手の温度。
どれもが要らなくてどれもが必要で。
訳が分からない。
分からないまま、光一は剛の背中に手を伸ばした。
縋れるものは他になかった。
2011/02/11 halfwaytale Trackback() Comment(0)
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