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もう届かないのだと気付いてしまった。
彼の背中は遠くて、どれだけ腕を伸ばしても届く事はない。
真っ白なスポットライトの中、凛と佇む彼の隣に。
自分は要らないのだと、諦めではなく唯歴然と其処にある事実として受け止めた。
光一はきっと、振り返らない。
夜中に目が覚めた。唐突な目覚めは割と良くある事だから余り気にならない。
原因だってちゃんと分かっていた。過度のストレスと、癒える事のない心の病。自身を蝕み続ける不安は、留まる所を知らない。
腕の中で寝息を立てている相方に視線を向けた。焦点の合うギリギリの至近距離。剛が不眠に悩まされる様になると、光一は寄り添って一緒に眠る。
何も話していないのに、まるで何もかも見通した素振りで。
けれど、無関心を瞳に装って。
「こういち」
当たり前みたいに剛の腕の中に収まっている彼の名を呼んだ。眠りの底にいる光一は勿論気付かない。
眠れない夜を同じ様に過ごして欲しい訳じゃなかった。唯、闇の中で独りなのだと気付かない為に彼の存在が必要だった。
俺を導く一条の光が欲しい。
欲しい物を明確に思い描いて、ふと自嘲する。剛のシャツを握り締めている幼い手にそっと触れた。
欲した優しいもの。その、温もり。
「ごめんな……」
俺がこの手を離していれば、お前はこんな風にならなかったのに。
細い腕、薄い肩、子供みたいな指先。どれも頼れる様な物ではなかった。
なのに、俺は。
存在全部を隣にいる彼に預けてしまった。
深い自嘲が身体を苛む。消えない後悔と自己憐憫。
けれど、光一はそれを負担とは言わない。いつもいつも彼は笑って受容してくれる。
真っ白い世界の中、独りで立てるのに。
彼は甘くひっそり笑むのだ。お前がおらんと俺はあかん、なんて。
もうええよって言えたらどれだけ良いだろう。光一を解放したかった。 自分のこの手は、この魂は、まだこんなにも光一を欲している。
駄々を捏ねる子供の様だ。醜い欲望が巣食っている。
光一を手に入れた時から何一つ成長していない。
彼を守りたくて、この手を伸ばした筈なのに。
「ん……つょ、し?」
苦しい俺の隣に必ず、寄り添う様に、まるで定められた約束事の様に、光一は剛が苦しくなると必ず気付く。
決して浅くはない眠りから目覚めた彼の瞳は、暗闇の中しっかりと焦点を合わせていた。
「…ご、めんな。起こして、もうたか」
「剛、息!」
普段の目覚めの悪さ等微塵も感じさせない素早い動きで、光一が起き上がる。
少し、やばいかもしらん。息が苦しかった。
「ん、まだ大丈夫、やわ。ちょぉ苦しいだけ」
「待っといて。今、く……」
「ええよ」
言って、引き留める。
お前がちゃんと此処にいてくれたら俺は平気やから。
また矛盾した事を考えている。これじゃ、いつまでたっても堂々巡りだ。
光一を解放したいのと同じ位、手放したくない。繋ぎ留めておきたい。
髪を掻き上げて息を吐き出した光一は、剛の望むまま寄り添った。
小さく笑んで呼吸を乱した身体を抱き締める。
「こぉ、ちゃん……?」
「剛、頑張ってんのやな」
背中に手を回して、優しく撫でる。
幼い子にする仕草。彼が一番安心出来る方法は、心得ている筈だ。
「俺、頑張れてへんよ」
光一の匂いに包まれて、少し息が楽になった。その分思考がはっきり冴えてしまう。
「頑張っとるやん」
「ううん。俺、光ちゃんみたいに頑張れてへん」
命を削る様に、全てを捧げる生き方等自分には出来ない。
こんな俺の手を引き続けて生きるなんて、そんな事。
「頑張っとるよ。凄く、一杯痛いの我慢してるやん」
ぎゅっと抱き締めて、頭を撫でられた。母親の仕草は光一の癖の一つだと思う。
どうしてこんなにも許してしまえるのだろう。
俺は、お前に優ししてもらえるような人間やないよ。
その愛情をその優しさを一つ残らず自分の物にしたいと思ったのは、罪深い自分だけれど。
「……俺は、お前に守られて、生きてて。甘やかされて、ずっと。苦しい事もやな事も、避けて来た、んや。頑張ってるんは光一で。俺は、」
「ええよ、剛。そんなん言う事ちゃう。苦しやろ? 寝てまい」
最後まで言わせず身体を横たえる。
言わなくて良い。考えなくて良いよ。お前はお前で頑張ってるやん。
「こぉちゃ……」
「寝、つよし。起きたらもう平気やから」
まじないの様に囁かれて、剛は目を閉じた。振り返らない背中。
届かないのは、縋った指先でも拙い恋心でもなく。
遠く、微かに見える光の意図。
此処まで来い、と願い続ける声は届かなかった。
唯ずっと、光一の優しさばかりが胸に痛い。
2011/02/11 halfwaytale Trackback() Comment(0)
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