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もう立てない。もう歩けない。
もう、お前とは進めない。
明け方近くにベッドに潜り込んで来た冷たい身体を邪険にする訳にも行かず、かと言って抱き締める事も出来ずに剛は寝た振りを決め込んだ。
どうせ彼は気付かない。
ぼろぼろになって生きているのがやっとの状態で帰って来たのだろうから。
どうしてこんなに仕事にのめり込めるのかが分からなかった。
世の中にはもっと楽しい事だってあるのに。
光一は、いつも前ばかり見て先に進む事ばかり考えている。
そんな相方に追いつけなくなって走るのをやめたのは、一体いつの事だろうか。
振り返って待っていてくれる光一を「要らない」と言った。
悲しそうな顔をするだけで何も言わなかった光一は、気付けばまた同じ様に走り始めて。
今ではもう、その背中すら見えなくなっていた。
限界を超えた所で生き続ける彼は、気高く孤高で手が伸ばせない。
小さな頃、確かにその手を握り締めていた筈なのに。
もう、触れる事さえ許されない。弱いのは自分だ。そんな事、充分に分かっている。
冷えた身体が少し熱を取り戻して来た頃、微かな吐息が規則正しいものに変わった。
ゆっくりと瞼を持ち上げると、思っていたよりも至近距離に彼の顔がある。
長い前髪が影を作っていて、表情が見えなかった。
肉感的な唇が小さな呼吸を紡いでいる。
一人で生きている光一は、酸素や水すら必要としていない様に見えた。
世界中のどんな要素からも自立して生きたいと願っている様な。
誰も辿り着けない場所に光一の精神は在って、けれどそんな生き方をする癖に時々縋る様な視線を向ける彼が嫌いだった。
一人で生きられるのに。
俺がいなくても、一人で進んで行く癖に。
歪んだ精神を抱えているのは俺だけれど、こんな精神構造に追い込んだのは間違いなく光一だ。
本当は、必要な物なんて全部お互いの手の裡にあった。
けれど光一は背を向けて突っ撥ねるし、俺はもう要らないと蹲ってしまった。
だからいつも、俺達は堂々巡り。
酸素も水も要らないと言ってしまえるのは、本当に必要な物を知っているからだ。
生きて行く為の術をとっくに見出してしまったから。
けれど、一緒に歩けない俺達は手の裡を晒す訳には行かない。
解いた指先を修復するのは不可能だった。
だから光一は、俺のベッドで眠る。
身体に必要な物を補う為に。
孤高の人の唯一の拠り所は、今も昔も此処だけだった。
俺が走るのをやめてしまっても。
いつか、お前も走れなくなる時が来る。
狡い俺はお前に追いつく努力をせずに、その時が来るのを待っていた。
お前の身体が堕ちて来る日をずっと、待っているんや。
やつれた身体をシーツで包み、抱き締める事は出来ないまま寄り添った。
いつか来る夜明けまで、二人は熱を分け合って眠り続ける。
2011/02/11 halfwaytale Trackback() Comment(0)
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