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鳥籠に無理矢理二人閉じ込められて、つがいになるのは当たり前だと思う。
エデンに住んだ二人だけの住人、アダムとイヴの様に。
お互いしかその瞳に映らないのなら、お互いが至上の存在になるのは当然ではないか。
「光一は、他の奴と付き合わんの」
シチュエーションを照らし合わせれば、恐ろしく不自然な台詞は余りにも自然に剛の口から零れた。
ゆっくり抱き合った後、力の入らない光一の身体を洗っている浴室に、剛の声が反響する。
為すがままになっていた恋人の反応は遅かった。
きょとんと見開かれた瞳と、言葉を反芻して顰められた眉がアンバランスだ。
「……付き合うって?」
軽く流すなり怒るなりしてみせれば良いものをまともに取り合ってくれるから、こちらもちゃんと答えなくてはならない。
あっさり流してしまえば良い話題だったのに。
こーゆーんは、この人の悪いとこやな。
「やぁから、男とか。俺しか知らんやろ?」
「あ、当たり前やろ!!」
真っ赤になって怒る姿を見て、今の聞き方はまずかったなあとほんの一瞬反省してみる。
「まあそんなんは、俺が一番良く知ってるけども。お前ホモちゃうもんなあ」
「何を今更。俺は元々常識人ですー。お前やなかったらあり得へんわ、ボケ」
あっさりと惚気られて、今度は剛が赤面した。二人して何をやっているのやら。
気を逸らす為に、シャワーを勢い良く出して泡を落とす。
自分はどちらかと言うと可愛ければ良いタイプなので、女か男かに付いては余りこだわりがなかった。
そう言う嗜好を見て、この人は節操なしなんて言うのだろうけど。身持ちは固い方だと思う。
「うん、光ちゃんがつよちゃんの事深ーく愛してくれてんのは分かってんのやけどな。最初の人が最後の人ってのはどうなんかなあって思うのよ」
「なん、それ? 意味わかんねー」
泡を流されてさっぱりした光一は、ちゃんと話をするつもりらしい。
一緒に浴槽に入っても文句を言わないのを良い事に、向き合って膝に抱えてみた。
「んー、やからな。俺しか知らんって言うんは、俺が良いんじゃなくて、俺しかいなかったから結果そうなったんかなあって思うねん。俺が手ぇ出さんかったら絶対こうはなってなかったやろ?」
光一も十代の頃幾つかの恋をして来た。
間近で見ていた自分にはその幼い真剣さがちゃんと伝わっていて。だから愛する事の出来る人だと言う事は、充分分かっている。
恋の少ない彼の環境は、どんどんプライベートを削除して行ったから。他人と知り合って深い仲になれる機会はあっという間になくなってしまった。
言ってみれば剛は、最後に残った他人なのだ。
だから仕方なく選ばれたのだ、なんて思っていない。この光一が男の自分と付き合うのは生半可な覚悟ではない筈だから。
彼の愛を疑っている訳じゃなかった。
唯、もしもの事を考えてしまう。
もし、光一の周りにもっと沢山人が居たら。
もっともっと選択肢があったら。
自分は選ばれていないのではないか、と。
仮定の想像は、剛を酷く憂鬱にさせる。
「……俺は剛が良かったんやで?」
「ぉん、知ってる。でも、もっと色々知ってた方がええんやないかなあって」
「知るのってそんなに大事な事? 一番大切なものちゃんと分かってんのに、知る事は必要な事なん?」
「光ちゃん……」
「俺は剛がええんよ? もし、もしな。お前が俺の隣にいなくて沢山の人の中に埋もれてても、全然違う国の人でも。俺はきっと、お前見付けるよ」
もし君が、砂の一粒であっても必ず探し出す。
そして、この掌にきっと捕まえる。
愛の囁きは剛の専売特許なのに、臆面なく光一は話す。
真っ直ぐな言葉は彼の真実で。
「参ったわ、男前やね」
「ふふ。今頃気付いたん?」
本当は、沢山の人を知ってそれでも剛が良いんだと言って欲しかった。最初から選ばれるのではなく、最後に選び取られる物でありたいと。
そんな願いを簡単に打ち砕いて、優しい笑みを光一は向ける。
鳥籠の孤独を知っている癖に、二人きりの寂しさを知り尽くしているのに。
此処に、戻って来るのだと。
錯覚ではなく他人に与えられた感情でもなく、自身の足で彼は立っている。
「俺悪いけど、お前以外無理やから。こんなん恥ずかしくて一からなんてようせんわ」
首に腕を絡めて、キスをねだられる。
その仕草も全部、剛が教えた物だ。
奪い穢し、そして最後に与えた物は多分碌でもないものだけど。
彼が迷いなく此処にいてくれるのなら、自分はきっと狭い鳥籠を憎まずに済む。
2011/02/11 halfwaytale Trackback() Comment(0)
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