[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
- Newer : halfway tale 30
- Older : halfway tale 28
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
光一が泣いた。
俺達にはなにもない、と泣いた。
分かっていた事なのに、苦しいなんて言ってはいけないとずっと戒めて来た。
それでも零れてしまった感情は、彼の本心だ。
ずっと、ずっと苦しんで来た恋人。
自分の思いの真実に気付いていて、けれどその正当性を見出せなくて。
俺は、お前がいればええよ。
何も考えんとそのまんまおってくれたらええのに。
そう言い続けていた筈だった。
何も生まなくても何も残さなくても、光一が一生俺の隣にいてくれるのなら、何もいらないと。
それなのに、彼は泣いている。
俺に何も渡せない事を悔やんでいる。
もう、ずっと沢山の物をもらっているよ。
お前の笑顔を、お前の温もりを、お前の眼差しを。全部。
光一を形成する全ての物がこの手にある。
こんな幸せな事はない。
その髪の一本まで、俺に差し出してくれているのに。
これ以上望んだら罰が当たるよ。
「こぉいち。顔、上げて」
泣き止まない彼の顎に手を添えて、視線を合わせる。
静かに涙を流し続ける透明な瞳を覗き込んだ。
いつだってその目の奥に偽りはない。
「俺は、何もいらんよ」
「……俺は、あげたい。つよしに、あげたい」
分かち合うよりも与える事を望む人だった。
その自己犠牲に近い程の愛情を、どうやって受け止めたら良いのか。
こんなにも愛されている事実をどうやったら伝えられるのか。
「何も、いらんよ。こぉちゃんがずっとおってくれるんやろ?」
優しく頭を撫でると、その首が小さく横に振られた。
「ずっと、は、いられん」
「……どーゆー事や」
剛の声が低く潜められる。
その身体を包み込んで、離れられない様にした。
「死んでも、その先も、ずっとおりたいけど。そんなん、出来んやん」
いつ離れてしまうか分からない。
そんな幼い不安を滲ませて、光一は泣いた。
どんな時も気高く生き続けている彼の中に住む子供の影。
不安で不安で仕方ないその子供は、時々手を伸ばして必死に縋り付いて来る。
「俺が離さへんから、大丈夫やよ」
その言葉に嘘はない。
いつか離れてしまう時が来たとしても。この気持ちは本物だった。
一人が怖いと泣くのなら、剛が欲しいと駄々を捏ねるのなら。
彼の欲するままに、望みを叶えよう。
「つよし」
「うん?」
「……俺は、何で剛なんやろな」
寂しく呟いた言葉は、計り知れない孤独を抱えている。
剛以外要らない、とその心は今も高い壁で守られていた。
光一に良い事ではないと分かっているのに、いつまでもそのままで居て欲しいと願う狡い自分も同じ場所で存在している。
「俺も光一だからちゃうの?」
「お前、趣味わるいなあ」
泣きながら笑おうとして失敗した。
俺が剛を選んでも、剛が俺を選びさえしなければ。もっと違った未来が開けていた筈なのに。
何もない、訳じゃない。きっと其処にはまだ見ぬ後悔が眠っている。
「光ちゃんは、謙遜がお上手やね。俺みたいなんを果報者って言うんやで」
「お前、嘘つきや」
「嘘ちゃうよ。俺達には何もない訳やない。此処には大事なもんがあるよ」
手を取って、自分の胸に導いた。
何度も止まりそうになったこの心臓。今も動いているのは、きっと光一が飽きずに此処にいたからだ。
「もう逃げたりせえへんから。ちゃんとお前と生きるから。やから、そんな悲しい事言うたらあかん」
離れない。もう、離さない。
お前は泣かなくて良いんだよ。
全部くれると言うのなら、その命まで俺に託して欲しい。全部、全部。
掌中に。
「俺、ずっと剛ばっかやな」
「ええやん、それ。幸せやろ」
幸福に怯えて、光一は困った顔をする。
涙の跡が残る頬に口付けて、額同士を合わせた。傷を舐め合う様に、二人。生きて行くのだと思う。
それが悲しい事だなんて、絶対に言わせない。
俺達は補い合いながら歩いて行く。
2011/02/11 halfwaytale Trackback() Comment(0)
COMMENT
COMMENT FORM
TRACKBACK