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「お前と後何回、この桜見れるんやろねえ」
言葉が、俺に絡み付く。
逃れられない呪縛だった。
彼女が零す言葉一つ一つが、じわりじわりと俺の身体を浸食して行く。
それでも構わなかった。
俺を産んでくれた彼女を愛する為に、その全てを受け入れる。
滑稽と言われようがマザコンと言われようが構わなかった。
俺には他に方法が思い付かない。
「生まれ変わったら、あんたの子供になれるかなあ」
言葉の全てに同意して、優しく笑う。
彼女の欲しい、弱いだけの子供の振りをして。
守られるだけ愛されるだけ、心臓が辛く痛むのを抑えられなかった。
大切な人だと思う。
出来る事なら、俺の全てで報いたかった。
けれど、それは出来ない事だ。
彼女の言葉が俺を責める棘を持つ。
全てを返す事は無理だった。
どんなに愛されても、俺はもう子供じゃない。
その厳然たる事実を、本当は彼女も自分も気付いていた。
分かっていながら続けるのは、まるでおままごとみたいだと思う。
戻れない場所まで来てしまったのに、過去を懐かしんで立ち竦んだ。
なあ、ごめんな。
俺はもうあかんねん。
たった一人、決めてしまったんや。
俺の全てを渡す人を、自分の生よりも大切な存在を。
もう貴方の腕の中には戻れない。
心臓は、既に彼の手の裡だった。
彼以上に愛せる人はいない。
俺に出来るのは、彼女の傍に出来るだけいる事だった。
何の不安もない様に、安心して愛せる様に。
俺は、光一しかいらない。
そんな傲慢な自分を自覚すればする程、彼女を大事にしたいと思った。
この気持ちに嘘はない。
愛せないから大切にするのだと、言ったらこの優しい恋人は怒るだろう。
自分の事等棚に上げて、もっと一緒にいろ!と家を追い出される筈だ。
だから、彼にも何も言わない。
全てを欺いて、俺の心の中に唯一の人だけを招き入れた。
それが、俺の選んだ生き方だ。
ギターを爪弾く自分の後ろ、寄り掛かったソファの上で丸くなって眠る光一を見上げた。
茶色の髪が目許を覆って、眠る彼の顔が見えない。
子守唄の様に俺の歌を聞く恋人が愛しかった。
他に何もいらない。
俺が欲しいのは、光一と音楽だけだった。
愛する人と、愛する人の為に奏でる音、それだけで構わない。
他の何も、俺の心臓に入り込む余地はなかった。
危険な恋をしていると思う。
結局、彼女には孫を見せてあげられないのだ。
望むものを何一つ与えられない癖に。
本当は、与えたいとも思っていなかった。
傲慢な自分は、醜い。
光一は、こんな俺を知っているだろうか。
知らなければ良いのにとは思うけれど、きっと聡い彼の事だ。
ちゃんと気付いていて、でも見ない振りをしてくれている。
彼は昔から何も言わなかった。
最初は言葉の足りない子だと思って一緒に過ごして来た。
何年も何年も無口になりがちな彼の声を引き出そうとして。
けれどある日、気付いてしまった。
俺が喋れない程落ちてしまった時に、やっとその真意に思い当たったのだ。
光一は、言葉の持つ力を知っている。
それ故に行使しないのだと。
幾ら言葉を発しても伝わらない無力さも、時には人を殺す程の威力がある事も全て。
虚しさも怖さも知っているから、彼は口を閉ざす。
言葉がなければ生きて行けない自分とは一線を画していた。
光一は潔く悲しい心を抱えている。
人に言葉を強要しないのは、傷付いた自分がいるからだ。
言葉に傷付いて死にそうになった過去を恐れている。
それは、俺が付けた傷だ。
可哀相な生き方をしている人だった。
爪弾く手を止めて、ソファーを振り返る。
穏やかな寝顔に安心した。
苦しい感情ばかり与えてしまったのに、それでも彼は真っ直ぐ生きている。
怖い位に。
緩く握られた指先に手を伸ばして、そっと重ねる。
冷えた指先は、彼の優しさを伝えてはくれないけれど。
「愛してる」
何も欲しがらない光一は、愛の言葉も望まないけれど。
言葉がなければ生きて行けないのは、俺だけだ。
彼女の声がリフレインする。
後、何度。
彼と同じ季節を過ごせるだろう。
こうして傍にいられるだろう。
永遠の愛は、誓えない。
それでも一緒にいたいと思う気持ちを、愛したいと願う傲慢を、どう伝えたら良いのだろう。
「光一、愛してくれんでもええから……」
祈るように呟く。
彼の鼓膜を振るわせない様に、密やかに。
その魂ごと大切なのだと打ち明けたい。
「生まれ変わらんで、ずっと此処にいて」
あの、桜の下で。
永遠に俺を待っていて。
ちょっと時期外れになってしまいました(^^;
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2011/02/11 halfwaytale Trackback() Comment(0)
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