[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
- Newer : halfway tale 44
- Older : halfway tale 42
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
思わせぶりに目配せして、ゆっくり誘い出す。
部屋に入ったら抱き締めて、少し低い声で戯れの愛を囁く。
そのまま柔らかなベッドに押し倒して、華奢な体を辿る。
全身に口付けて、怯えさせないように。
全て、本能が知っている事だった。考えなくても勝手に体が動く。
女を抱く事が本来の自分に課せられたDNAよりの使命だ。簡単な筈なのに。
誘い出したダンサーの姿は既になく、唯一人服すら乱していない自分がベッドの上にあるばかり。
光一は、自分自身を試していた。抱かれることに慣れた体は、今も本能を有しているのか。剛以外の人間と体を重ねても快感を得られるのか。
答えはノーだった。誰も抱けない。誰にも抱かれたくない。考えてどうにか抑えられる衝動ではなかった。
明確な拒絶。怖くなる。自分がどれだけ剛を愛しているのかに気付かされる。この体の全てを捧げていた。全部、剛のものだった。
着ていた服をやっと脱いで、ベッドに横たわる。あのダンサーの彼女は悪くなかった。ベッドまで連れて来て追い返してしまうなんて、彼女のプライドを傷付けただけだ。
好きなんかじゃなかった。唯試したかっただけ。酷い男だと自嘲する。
嘘でも何でも抱けば良かったのに。まだ明日も撮影はある。気まずい気持ちを抱えさせるだけで、何のメリットもない行為だった。
鬱々と考え込んでいると、バッグに放り込んでいた携帯が着信を告げる。本体の揺れる低い音が響いていた。こんな深夜に、しかも絶妙のタイミングで掛けて来る人間は一人しかいない。
彼の勘はいつも狡いと思った。嘘が吐けない。そう考えても手は自然に伸びていた。予想通りの表示に安堵と苛立ちが生まれる。
「……はい」
「光一?今平気か?」
知っている癖に、と言いそうになって慌てて唇を噛む。
「ん」
「今、何してたん?」
「……何も」
「何してた?」
一瞬の躊躇を見逃さない。確実に切り込まれる。全部見通されている感覚は、男として気持ちの良いものではなかった。
苛々する。女を抱けない自分にも、俺を支配する剛にも。
「女、いるんか」
剛は、自分の癖を知っている。そう、癖と呼んで支障がないなら確かめる行為は全て癖だった。
「おらん。もう、帰った」
降参して、白状した。受話器の向こうで笑んだ気配。
「また、やったんか。こーちゃん」
「分かってて掛けて来たんやろ」
「まあな」
三泊四日の強行スケジュール。疲れてはいても、光一のことだ。自分の目が届かないのを幸いに、きっと誘うだろうと思っていた。
全部無駄な行為だと、剛は口角を僅かに引き上げて思う。何もかも意味も可能性も未来もなかった。
そもそも俺たちの関係自体がそう言う物だと言う事を彼は忘れている。今更、何を望んで、この臆病な恋人は。
けれど剛にとって幸いなのは、光一が引きずり込むのが女である事だ。抱けない自分を自覚するだけの自虐的な行為だが、それが剛以外の人間、つまり男に向かなくて良かったと思う。
女なら追い出せるけど、男を連れ込んだら結末は目に見えていた。光一が無理だと判断しても、相手はそのまま抱こうとするだろうから。
試すのは構わない。それは浮気ではなく、結局自分への本気を認識するだけだからだ。可愛過ぎて、どうしようもなかった。
「もう、ええ加減諦めたらどうや?」
「嫌や」
甘く優しく囁いた言葉は、不機嫌な声に遮られる。
そんなに、この恋はお前にとって恐怖なんか。俺が世界の何よりも大切にしている物が、苦痛なのか。意味のない関係を、不毛な恋を、お前は捨てたいと思っているのか。
否、そんな筈はない。要らない物ならとっくに捨てられている。この人はそう言う人だ。自分に必要な物を自分で判断出来る強い人だった。
この恋を望んで、それでも尚怯える理由を知っていた、愛が深すぎる故に、途切れない情を自覚するが故に、光一は自分との距離を取りたがる。困った恋人だった。
「帰ったらどうせ俺に抱かれる癖に。俺にしか抱かれん癖に」
「そうや。剛以外の誰にも抱かれる気なんかあらへん。でも、いつかまた抱けるようになるかもしれんやん」
「光一」
呼び掛けた声の温度に、恋人の募る唇が動きを止めたのが分かった。冷えた言葉。
使い分けているの位分かるだろうに、理解と反射は違うらしい。剛の言葉に光一は呆気なく怯えた。インプリンティングの原理。剛は、それを狡猾に利用する。
「なあ、光一」
「……な、んや」
「お前は俺がどーゆー気持ちで電話してるか、考えたことあるか?」
「どぉ、ゆう意味……」
「そのまんまや。俺が不愉快になるとか怒るとか、そー言うん考えた事ないんか?」
黙り込んだ受話器の向こう。密やかな息遣いだけが雄弁に語り掛けて来た。普段の俺ならば、そんな言葉にならない思いも汲み取ってやるけれど、今日は違う。言葉にしなければ、理解等してやらない。
「お前を抱くんは、世界中でたった一人でええ。俺だけがお前を知っていればええんや」
「つよし……」
「お前が今までに抱いた人間も抱かれた人間も全部教えろ。そいつら全部殺したるわ」
「つよ」
「なあ、考えもせんかったの?俺は、お前やって決めてから、一度も他の人間を抱いた事ないで。抱こうともせえへん。光一だけを一生愛そうって決めたからや」
「俺、」
「なんや?お前は一度も考えた事ないやろ。俺はお前に触れた奴全部、この世から消してまいたい。例え其処に愛情がなくても、お前の肌を唇を心拍を、知ってる奴なんか俺一人で充分や」
「剛、ごめ……」
「お前はいっつも逃げるばっかや。一人だけ嵌まってないふりして、いつでも俺の隣からいなくなる準備して。そんなに嫌なら、何処へでも行ったらええんや」
「……剛」
光一の声が濡れているのに気付いて、言葉を飲み込んだ。息を詰める。泣かない光一の震える声。
「光一が俺を好きな事位、知ってる。でも、もう嫌なんや。俺以外を見ないでくれ。俺の隣から飛び立とうやなんて思わないでくれ。お前は俺のもんや。俺も、お前のもんや」
「俺は、怖い。お前が俺のもんになるんは、怖い。死にそうになる」
この身は全て、剛に預けたけれど。剛を、この最愛なる人を手中に収めるなんて出来ない。俺は、弱いから。
「怖くない。光一が離れて行く以上に怖い事なんかあらへん」
「俺は、何処にも行けんのや。お前んとこしかいられない。剛しかいらない」
怖くても苦しくても、この愛が消えない限り。例え、自身の矜持すら失っても。
「それでええ。何処にも、行くな。此処にいろ」
囁いた言葉に、愛の温もりはなかった。二人を繋ぐ情は、果たして何と呼ばれる物なのだろう。
DEEP~のPVメイキング妄想(笑)。
←back/top/next→
2011/02/11 halfwaytale Trackback() Comment(0)
COMMENT
COMMENT FORM
TRACKBACK